2016年2月16日
筑北村に移住したきっかけを教えてください。
克典さん)もっと広い場所が欲しかったんです。木工の勉強をしていた木曽をはじめ、長野県内あちこち見て回った中で、ここが一番環境が良くて、色んな意味で現実的な場所だと思いました。
智子さん)この家は、たまたま友人から紹介してもらったんですが、それまで筑北村という村があることも知りませんでした。現実的な場所、というのは立地条件が良いところですね。まず電車が通っている、それから高速道路が通っている、松本市にも上田市にも長野市にも1時間くらいで行けるところがすごく便利だなと思いました。松本や長野で展示会をやるにも便利な場所だと思います。あと、自然環境もとても良かったです。木工だと機械の音が出るし、陶芸は多少なりとも煙が出るので周囲に気を遣いますが、ここだと隣の家との距離があるので、その点が気にならないのも決めた理由です。
お住まいの地域はどんなところですか?
智子さん)区全体で42世帯くらいで、全員知り合いみたいな感じです。ちょっと訪ねていくと、「お茶飲んでけ」って言ってくれて、ご近所付き合いの感じもすごくいいです。隣組の5軒は親戚みたいな感じです。
克典さん)野菜を山ほど戴くこともあるし、なんだかんだ気にかけてくれていますが、普段は放っておいてくれる。その感じがいいんです。
智子さん)すごくいい距離感です。恵まれたなと思います。実は、引っ越してきてから3~4年は隣組に入らなかったんです。ちょっと周りと距離を置いて暮らそうと最初は思っていて。でもここで長く暮らしそうな予感があったので隣組に入ったら、地区旅行とか区の行事が色々あって、そういった行事を通じてぐっとご近所と仲良くなれたので、もっと早く入っておけばよかったなと思いましたね。
筑北村に来てよかったと思うことは?
克典さん)ここに来たおかげで、ものづくりでやってこられたんだろうなと、今になって思います。他にやることがないし、やらざるを得ない環境というか、毎日、自然と、常に制作するようになりました。
智子さん)毎日が仕事みたいな感じですね。二人ともなんとなく他の場所では制作活動がうまくいってなかったのが、筑北村に来てからしっくり何かが定まったというか。
克典さん)漆が採れるようになったというのも大きいですね。15年前まで漆掻き職人をしていたという地元の人が教えてくれたんですが、自宅のすぐ近くの漆の樹から、結構質のいい漆が採れるんです。
以前は中国産のものを主に使っていましたが、今は近所で自分が採ったものを使えることが嬉しい。材料の木も今は半分以上が地元の木です。行く行くは全ての材料を筑北村産にするのも面白いかなと思っています。
筑北村に来て困ったこと、びっくりしたことはありますか?
智子さん)おすそ分けでいただく野菜の量がびっくりするくらい多いです。(笑)
克典さん)ここに来て最初のうちは、草刈りの感覚が地元の人と大分ずれていたみたいです。最初の何年かは草刈り機も持っていなかった。草刈りをするものだっていうのを全然知らなくて。その辺のずれは結構大きかったと思います。それでも、周りの人は放っておいてくれました。そのうち、年に二回ある地域の草刈りに参加するために草刈り機を買って、それから自宅の周りも草刈りするようになりました。
今は農業もされていますよね。以前から興味はあったんですか?
克典さん)お米づくりは今年で3年目です。自家製の味噌をつくるので、今年から大豆を作りました。あとは蕎麦、えごま、こんにゃく、季節の野菜などを作っています。あと、無化学肥料・無農薬の雑穀類を栽培するグループに夫婦で入っていて、仲間と一緒にゴマとか色々なものを栽培しています。農業はついやり過ぎてしまうのですが、制作の時間が無くなってしまうので、ちょっと抑えようと気をつけています。
智子さん)農業は全然やったことはなくて、ここに来るまでは興味もなかった。でもここでは、お米を作って野菜も作るのが当たり前なんです。都会に住んでいると、お米を作っていることはすごいことに思えたけど、ここに来たら皆当たり前に作っているから、自分でも当たり前に思えてきちゃった。最初は作り方がよく分からなくてあまり良い物はできなかったけど、年々と良くなってきたかな。
克典さん)農業で自給自足な生活に興味があって、自然農法の本とか結構読んでいたんです。ただ、ここでは場所はあっても自然農法はできない雰囲気がある。借りた農地で草を生やしておくわけにいかないですしね。でも農業は楽しいですよ。工芸をやっていると、一か所に座ってじっとしている時間がどうしても長くなるので、足腰使って動くっていうのがいいですね。
智子さん)私も、陶芸もそうですけど、土に触っていることが好きなので楽しんでやっています。
筑北村のお気に入りの景色を教えてください
智子さん)自宅の台所の窓から見える大きな欅の木の景色が好きです。我が家のシンボルツリーです。欅の木は他の木に比べて、秋は一番先に葉を落として、春は一番遅く芽吹くんです。だからその欅の木を見ていると、葉が落ちたら、「まだ少し暖かいけれどもう冬なのかな」とか、季節の変わり目を感じられてすごく好きです。
克典さん)秋になると葉が紅葉してから散るんですよ、その景色がすごくいい。
智子さん)冬は冬で雪が積もると本当に綺麗です。以前、都会に住んでいた時は、都会の暮らしに息が詰まって、年に1~2回は旅行に行きたくなりました。でもここに来てからは、朝起きると毎日がキャンプしているみたいですごく新鮮な気持ちです。おかげで旅行に行かなくなりました。海外にはたまに行きたいとは思うけど、それも少なくなりましたね。
克典さん)多分、海外に行っても、そんなに感動しないかもしれない。
智子さん)ここにいたほうがいろいろと感動がある。
克典さん)学生だった頃は、ネパールとかインドとかあちこち行っていたけど、ここでも朝に、そういう国々と同じような匂いがすることがあるんです。たぶん、藁の燃えた匂いだと思うけど、それだけで十分です。
智子さん)私たち、それぞれ日本以外のところに住んでいた経験があるから、余計にこういう暮らしが新鮮に思えるんです。食器もそうだけど、食べるものも、「和」なものを大切にしたいなって思いますね。
田舎暮らしをしたいと思っている方へのメッセージをお願いします
克典さん)ここはいい場所ですよ。村の人には、実はすごい知識や技術を持った人が多いです。炭焼きをやっていた人とか、蕎麦打ちがうまい人とか。そういう知識や技術を持った人にいろいろ教えてもらうといいと思います。
智子さん)やっぱり地域に溶け込むこと。恐れないで、まずは隣組のご近所さんと話をするところから始めて、地域の生活の中に飛び込むのがいいと自分の経験から思います。